blog»ブランド・マーケティング»なぜマーケティング戦略は成果が出ないのか?EC売上を伸ばすための本質的アプローチ
大森 葵
2025年03月11日
この記事は約8分で読めます。
この記事は約7分でお読みいただけます。
多大な時間とリソースを投入し、プロのチームを招いて広告を企画したにもかかわらず、コンバージョン率は低いまま。これは、多くのブランドが経験したことがある課題の一つでしょう。
完璧に見えるマーケティング戦略が、なぜ何度も壁にぶつかるのでしょうか? その答えは、「顧客の本当のニーズに届いていないから」かもしれません。
本記事では顧客の視点に立ち、具体的な事例や実践しやすいマーケティング手法を紹介し、特にECを運営するブランドのマーケティング戦略を見直すサポートができればと思います。
顧客が商品やサービスを購入しない理由の一つは、商品の問題ではなく、マーケティングの内容が彼らの心に響いていない可能性が高いことです。
ブランドは商品の機能を強調しがちですが、その機能が顧客にどのような価値をもたらすのかを伝えきれていないこともしばしばあります。こうした「機能重視のアプローチ」では、顧客は商品と自分のニーズとのつながりを感じにくくなります。
顧客が求めているのは単なる商品ではなく、「体験」や「解決策」です。商品やサービスを以下のような視点で考えてみましょう。
次に、ECサイトの売上増加のための代表的な施策をご紹介します。ここでは、多くの人に馴染みのあるであろう以下のECサイト売上の公式を使って、要素ごとにご説明します。
①流入数を増やす:潜在顧客を引き寄せる
広告、SEO対策、SNSマーケティングなどを活用し、顧客を商品ページへ誘導します。
②購入率を向上させる:顧客の関心を引きつける
適切なマーケティングメッセージを使うことで、顧客のニーズを商品が満たせるということを的確に伝え、購入へとつなげます。
③客単価を上げる:より高い価値を提供する
セット販売やアップグレードサービスを導入し、商品の総合的な価値を高めることで、顧客がより高額な商品を購入するよう促します。
この3つの要素はどれも重要ですが、多くのブランドが直面する最大の課題は「②購入率の低さ」でしょう。その原因の多くは、購入に導くためのマーケティングメッセージが顧客のニーズを正しく捉えていないことにあります。
そこで次に、より顧客のニーズを掴んだマーケティングメッセージを作るために、「マズローの欲求階層説」をご紹介します。この説は、顧客の購買動機を理解するための重要な視点を提供してくれます。
この理論では、人間の欲求を以下の5つのレベルに分類します:生理的欲求 → 安全の欲求 → 社会的欲求 → 承認の欲求 → 自己実現の欲求 の5つです。この理論は、もともと心理学理論ですが、マーケティングにおいては、それぞれの欲求レベルを特定の購買動機と結びつけて考えることができます。
・該当する商品例:日用品、食品、基本的な家電製品など。
・顧客心理:価格は適正か? 商品は実用的か?
ケース紹介:ニールセンの調査によると、60%以上の消費者は価格が手頃で実用的な日用品を優先的に購入する傾向があります。 例えば、ユニリーバの「Lifebuoy」石鹸は、「清潔こそが健康の第一歩」というキャッチコピーを掲げ、インドなどの新興国市場で展開しました。
学校や地域で衛生教育を実施しながら、広告を通じて「家族の健康を守る」という価値を強調したことで、Lifebuoyは市場で大きなシェアを獲得できました。
参考キャッチコピー(プロティンバーを例に)
・「手軽に栄養補給!1本でエネルギーチャージ。」
・「忙しいあなたへ、美味しくタンパク質補給。」
・該当する商品例:健康食品、保険、家庭用監視機器など。
・顧客心理:この商品は、自分と家族の安全を守れるか?
・ケース紹介:家庭向けの調査によると、85%の人が、子ども用家具を購入する際に最も重視するのは「安全性」であると回答しています。 例えば、イケアの最新の子ども向け家具シリーズは、新たな安全基準を採用し、SNS上で #SafeKidsAtHome(安全な家庭環境を子どもに) というハッシュタグキャンペーンを展開しました。
この取り組みにより、数百万回のインタラクションを獲得しました。広告では、家具の丸みを帯びたデザインや安定した構造を強調し、家庭での使用シーンを再現した動画を通じて、「子どもの成長を安心して見守れる」というメッセージを強調しました。このようなマーケティング手法は特に若い親世代からの信頼を獲得し、大きな反響を呼びました。
参考キャッチコピー(家庭用防災セットを例に)
・「もしもの備えに、これ一つで安心。」
・「家族を守る、必携の防災セット。」
・該当する商品例:ギフト用品、ペット用品、ホームパーティーグッズなど。
・顧客心理:この商品を通じて、気持ちを伝え、関係を深めることができるか?
ケース紹介:ハーゲンダッツは2024年のバレンタインデーに限定カップルセットを発売し、SNSでロマンチックなストーリーシェアキャンペーンを実施しました。その結果、前年同期比で売上が増加しました。
「愛する人にはハーゲンダッツを」というキャッチコピーを掲げ、バレンタインやその他のロマンチックなシーンを描いた広告を展開することで、アイスクリームを「愛を伝える象徴」として訴求しました。このように、特定の感情やシーンと結びつけるマーケティング戦略は、消費者の心に響きやすく、購入の動機を強化できます。
参考キャッチコピー(アクセサリーを例に)
・「特別な贈り物で、二人の距離をもっと近くに。」
・「愛の気持ちをこの瞬間から伝えよう。」
・該当する商品例:高級ブランド品、ハイブランドのファッション、ラグジュアリーカーなど。
・顧客心理:この商品を持つことで、より洗練された印象を与え、周囲から尊敬されるか?
ケース紹介:世界的な時計ブランドのロレックスは、2024年の広告キャンペーンで女性リーダーの姿を前面に打ち出し、現代社会の変化を反映しながらも、高級ブランドとしての地位を維持しています。
広告では、ビジネス会議やエグゼクティブの社交場を舞台に設定し、ブランドの洗練されたイメージを強調しました。シンプルながらも力強いキャッチコピー「ロレックス、時間を超える存在」を通じて、ブランドと成功者の象徴を結びつけ、顧客の尊重欲求に完璧に応えました。
参考キャッチコピー(高級ビジネスバッグを例に)
・「このアイテムがあなたの物語を語る。」
・「唯一無二のスタイル、それはあなたのために。」
・該当する商品例:キャリア講座、フィットネス器具、自己啓発ツールなど。
・顧客心理:この商品は私が成長し、目標を達成するのに役立つか?
ケース紹介:ナイキは、新進気鋭のアスリートたちとコラボレーションした特別デザインのシューズを発売し、若者たちに夢を追いかける勇気を与えました。 例えば、ナイキはシアトル・ストームのガード、ジュエル・ロイド(Jewell Lloyd)と中国代表のガード、ヤン・リウェイ(杨力维)に特別仕様のシューズを提供しました。
これらの取り組みは、新進アスリートを支援する姿勢を示すだけでなく、彼らのストーリーを通じて「夢を追い続ける力」を伝えるものとなりました。そして、ブランドの象徴である「Just Do It」というスローガンと組み合わせることで、消費者の自己挑戦・限界突破への意欲を刺激し、世界的なスポーツブランドとしての地位をさらに強固しました。
参考キャッチコピー(学習塾を例に)
・「無限の可能性を引き出し、より良い自分へ。」
・「今の努力が、未来の可能性を広げる。」
(ナイキの広告より)
冒頭の通り、マーケティングは顧客理解に始まります。 ターゲット顧客の詳細なリサーチは効果的なマーケティング戦略を立てる上で不可欠です。過去の販売データ、顧客レビュー、市場調査を分析し、性別・年齢・興味・購買習慣などを明確に把握することで、顧客像をより精密に描くことができます。
例えば、フランス企業のロレアルはアジア市場向けにスキンケア製品の処方を調整し、「軽やかで負担のない使用感」を重要視することで、アジア市場でも認知を拡大し、成功を収めています。
すべての商品やサービスは「、特定のニーズレベル(マズローの欲求階層)と結びついています。製品の位置づけを明確にすることで、適切なマーケティング戦略を設計することにつながります。
例えば、AppleはApple Watchのプロモーションで、「健康サポート」と「ファッションアクセサリー」という二重のポジショニングを打ち出し、フィットネス愛好家とトレンド志向の消費者の両方を惹きつけました。
広告におけるメッセージ、つまり広告コピーは製品と顧客ニーズを結びつける架け橋です。優れたコピーは、単に商品情報を伝えるだけでなく、共感を生み、購買意欲を引き出します。
例えば、IKEAの「狭い空間でも、暮らしを豊かに」という広告コピーは、都市部でコンパクトな住まいに暮らす若者のニーズを的確に捉え、大きな共感を得ました。
精度の高いマーケティングの鍵は、常に改善を重ねることです。A/Bテストを活用し、さまざまな広告・ページデザイン・コピーを比較することで、最も効果的なアプローチを見極めることができます。
例えば、スキンケアブランド「GlowSence」は、周年セール時に「期間限定割引」の広告を試したところ、主力製品「保湿修復セラム」の注文数が急増しました。さらに、A/Bテストを実施した結果、「本日終了の限定オファー」というフレーズの方が、「年間最安値」よりも購買意欲を引き出しやすいことが判明しました。
SNSはブランドの影響力を拡大し、ターゲット顧客にリーチするための強力なツールです。 例えば、lululemonはKOL(インフルエンサー等)と協力し、新作ヨガマットをプロモーションしました。さらに、「30日間ヨガチャレンジ」というキャンペーンを展開し、多くのユーザーの参加を促しました。この戦略により、製品の売上だけでなく、ブランド全体の認知度とエンゲージメントも向上しました。
ECマーケティングの本質は高度な技術や巨額の広告費ではなく、「顧客ニーズの深い理解」にあると言えます。 マズローの欲求階層を活用し、適切なポジショニングと心を動かすコピーを組み合わせることで、顧客の真のニーズに応え、コンバージョン率と売上を向上させることができるでしょう。