blog»ブランド・マーケティング»売上とブランド、どちらも欲しいD2Cに必要な広告チャネルとクリエイティブ戦略
2025年07月02日
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D2Cブランドがスケールするうえで欠かせないのが「広告運用の巧拙」です。限られた予算で最大の成果を出すためには、「どの広告チャネルを選ぶか」と「どんなクリエイティブで訴求するか」という2つの軸が極めて重要になります。
特に近年は、SNS広告と検索広告の両方をどう使い分けるかが、成果を左右する大きなポイントになっています。SNSは共感や認知獲得に、検索広告は顕在層の獲得に強みを持ち、それぞれ特性が異なるからです。
本記事では、
といったトピックをもとに、D2Cブランドが押さえるべき広告運用の“黄金ルール”を徹底解説します。
売上も、ブランド価値も、どちらも追求したい。そんなD2Cの理想を叶えるための戦略設計のヒントが詰まっています。
D2Cブランドが広告を運用するうえで、よく議論されるのが「SNS広告中心でいくか、検索広告中心でいくか」というチャネルの選択です。それぞれに特徴があり、目的やブランドのフェーズによって使い分けが求められます。
SNS広告 | 検索広告 |
---|---|
認知・共感型、ブランド訴求に強い | 顕在層向け、即CVを狙いやすい |
Instagram, TikTok, YouTube Shorts など | Google Ads, リスティング広告 |
クリエイティブの質が勝負 | キーワード設計とLP改善が鍵 |
一方でSNS広告は、認知拡大やブランドイメージの形成を目的とした潜在層へのアプローチに強みがあります。細かいターゲティングが可能なため、年齢・性別・興味関心などに応じて、商品に対して興味を持ちそうなユーザーにリーチできます。
特に若年層へのリーチがしやすく、ユーザーとの距離が近いプラットフォーム上では、広告がシェア・拡散されることでさらなる効果も期待できます。
また、低予算から始めやすく、他の広告チャネルでは届きにくいユーザーにも情報発信できるため、中長期的なファンづくりやエンゲージメントの向上に適した手法です。
プラットフォーム | 向いている業界・目的 | 特徴 |
---|---|---|
X(旧Twitter) | 新商品、キャンペーン、アプリのDL促進、フォロー獲得 | リアルタイム性・拡散力に優れ、話題づくりやバズ狙いに最適 |
LINE | EC、飲食、ゲーム、美容・健康 | 検討期間が短い商材に強く、幅広い年代の女性にもリーチ可能 |
美容、飲食などの視覚訴求が重要な商材 | ビジュアル中心の広告展開で、世界観重視のブランド向き | |
EC(特に安価な商材)、人材・ローン・セミナー、小売 | ターゲティング精度と信頼感があり、BtoC・BtoBどちらにも有効 | |
TikTok | コスメ、アパレル、飲食、観光、不動産など | エンタメ性とショート動画の没入感で、若年層に強く刺さる |
YouTube | 車、スポーツ、美容、ファッション系EC | 長尺・視聴習慣がある媒体のため、比較検討が必要な商材向け |
検索広告は、検索結果の上部に広告を表示できるため、購買意欲が高い顕在層に向けて、短期間で効率的なアプローチが可能です。審査を通過すればすぐに広告配信を開始でき、短期間で効果を実感しやすいのが大きな特長です。
さらに、特定のキーワードに対して広告を表示する仕組みのため、緊急性の高いニーズを持つユーザーの目に留まりやすく、コンバージョン率の高い集客施策として多くの業界で活用されています。また、広告ごとの効果を数値で明確に把握できるため、費用対効果の検証や改善も行いやすい点も魅力です。
緊急性が高いサービスを提供している業界では、ユーザーが即時に情報を求めて検索するため、検索広告との相性が非常に良いです。例えば、医療機関や弁護士事務所などは、まさに今助けを必要としている顕在層への即時訴求が可能です。
また、ユーザーのニーズが明確な業種、たとえば不動産賃貸・不動産売買、ハウスメーカーなども、検索キーワードに基づいて広告を表示することで、検討段階に入っているユーザーに直接アプローチできます。さらに、地域性が強い業種、たとえばレンタカーやスポーツジムなど、エリアを限定して集客したいビジネスでも高い効果を発揮します。
このように、リスティング広告は「今すぐ必要」なユーザーを確実に取りに行く手法、一方でSNS広告は「将来必要になるかも」のユーザーに気づきを与え、ブランド接点を作る手法といえます。それぞれの媒体特性を理解した上で、業種や商材に応じた適切なチャネル選定が重要です。
多くの成長しているD2Cブランドは、この両方をバランスよく活用しています。たとえば、SNS広告で認知と興味を引き、検索広告で比較・購入のフェーズにアプローチするなど、ファネルの各ステージに応じてチャネルを使い分け、全体最適を図っているのです。単一チャネルに依存するのではなく、ユーザーの購買行動に沿って広告を設計する視点が、今のD2Cには求められています。
そこで注目されているのが「クロスチャネル戦略」です。
これは、複数の広告チャネルを統合して利用し、ユーザーに一貫したメッセージを届ける手法です。クロスチャネル戦略では、集客からコンバージョンまでのカスタマージャーニーを設計し、各段階で適切な広告チャネルを利用します。
例えば、Web広告で認知度を高めながらSNS広告でエンゲージメントを促進し、最終的にWeb広告でコンバージョンを狙うという流れになります。
BASE FOODは、「かんたん・おいしい・からだにいい」を掲げ、完全栄養の主食を提供するD2Cブランドです。オンラインを中心に、多様なチャネルを連携させてブランド体験を設計しています。
多チャネルを活用した一貫したメッセージ戦略
BASE FOODは「健康をあたりまえに。」というブランドミッションのもと、チャネルごとに役割を分けながらも、統一されたメッセージを発信しています。
近年、多くのD2Cブランドが注目しているのが、UGC(ユーザー生成コンテンツ)や口コミの活用です。企業側が発信する広告よりも、実際のユーザーによるリアルな声のほうが、消費者の共感や信頼を得やすいという特徴があります。
特にSNSが日常に溶け込んでいる今、ユーザーが自然に投稿する「レビュー動画」や「使用感レポート」、「開封動画」などは、広告とは異なる“広告臭をあまり感じない安心感”を提供します。これにより、まだ商品を知らない潜在顧客にもポジティブな第一印象を与えることができます。
また、UGCは第三者による証言=信頼の可視化であり、ブランドへの安心感を醸成します。例えば、ユーザーが自社商品を実際に使っている様子を映した投稿がSNSで拡散されると、その商品の魅力や使用シーンが具体的に伝わりやすくなります。これは購入前の不安を解消する重要な要素でもあります。
さらに、UGCはブランドとのエンゲージメントを高めるという点でも有効です。ユーザーの投稿を公式アカウントが紹介する、コメントや「いいね」でリアクションするなど、企業とユーザーとの間に双方向の関係性が生まれることで、ブランドに対する愛着やファン化が促進されます。
このように、UGCは単なるコンテンツの一部ではなく、信頼の獲得・共感の創出・顧客との絆づくりという観点から、現代のマーケティングにおいて欠かせない要素となっています。
Botanistなどのヘアケアブランドを手掛ける株式会社I-neはUGCを活用してCVRを1.73倍に向上させることに成功しました。
活用背景:
ユーザーが「商品を使うことでどのような体験ができるのか」「どんなメリットがあるのか」をより具体的にイメージできるよう、UGC(User Generated Content)の活用に注目。
SNSフィードとの親和性も高く、広告への違和感を軽減し、より自然な形で新規ユーザーへのリーチが可能になる点、さらに費用や人的リソースを抑えて素材を調達できることにも魅力を感じ、本格的にUGC活用を開始。
施策内容:
成果:
このように、広告に対して“疲れ”を感じる人が増えている今の時代においては、ユーザー目線の自然なコンテンツ=UGCを活用することが非常に効果的であるといえるでしょう。
縦長ショート動画:TikTok、Instagram Reels、YouTube Shortsなど
縦長ショート動画は、ユーザーのファーストビュー(最初の数秒)で注意を引きつける構成が求められます。特にTikTokやインスタグラム上のReelsのようなプラットフォームでは、「広告っぽくない」ストーリー性やリアリティのある表現が好まれる傾向にあり、UGC風の演出や日常的なシーンの切り取りが効果的です。
この形式は、商品やサービスに対する「共感」や「感情移入」を引き出しやすく、認知・興味関心フェーズでの活用に向いています。
「使っている様子」「ストーリー」「開封体験」など“生活に入り込む”構成とは
現代の消費者は、ただ「商品を紹介される」だけでは心が動きません。重要なのは、その商品が自分の生活にどう関わるのかをリアルに想像できるかという点です。そこで効果的なのが、「使っている様子」や「ストーリー仕立ての演出」、「開封体験」などを盛り込んだ、“生活に入り込む構成”の広告です。
Before / Afterで変化を視覚化
商品を使用する前と後のBefore / Afterを明確に見せることで、ユーザーは「自分もこうなれるかも」と効果をリアルにイメージできます。特に美容・ダイエット・掃除・収納系の商材では、この構成が非常に有効です。視覚的な変化が伝わりやすく、短時間で説得力を持たせることができます。
日常生活に登場させ「自分ごと化」
広告の中で商品をあえて“日常の中”に自然に登場させる演出も効果的です。例えば、朝のスキンケアルーティンや、仕事中の軽食シーン、子育て中の一コマなどに商品を組み込むことで、視聴者は**「これ、自分にも必要かも」と感じる**ようになります。これは単なる商品の紹介ではなく、ライフスタイル提案型の広告手法ともいえます。
親近感のある登場人物の起用
商品の魅力を伝える「誰か」もまた重要です。芸能人ではなく、インフルエンサーや一般人など“自分と近い存在”が登場することで、共感や信頼感が生まれやすくなります。コアなファン層が多いとされているマイクロインフルエンサーは、「おすすめ=本音」と捉えられやすく、広告色が薄れることで、ユーザーの受け入れやすさも格段に上がります。
このように、“生活に入り込む”構成は、ユーザーの「自分も使ってみたい」という気持ちを自然に引き出します。D2Cに限らず、あらゆるジャンルの広告で効果を発揮する、今後ますます重要になるアプローチです。
検索広告(リスティング広告)は、ユーザーが自ら能動的に検索する「顕在層」にアプローチできる貴重な広告手法です。検索結果に表示される広告文(テキスト)が主なクリエイティブとなるため、画像や動画よりも言葉選びの精度が成果に直結します。
そのため、クリエイティブの設計では、ユーザーの検索意図と合致した文言の設計が何より重要です。ここでは、検索広告の効果を最大化するために意識すべき5つのポイントを解説します。
検索広告において最も重要なのは、「ユーザーの検索意図にどれだけ寄り添えるか」です。
ユーザーは商品を探す際、明確な悩みやニーズを持って検索行動を取ります。広告文がその意図とずれていれば、表示されてもクリックされず、仮にクリックされたとしてもコンバージョンにはつながりません。
そのため、検索キーワードの選定にあたっては、まずターゲットユーザーの行動や心理の整理が必須です。性別や年代、ライフスタイル、関心事、どのような場面で商品やサービスを必要としているのかといった情報をもとに、検索時に使われそうなキーワードを洗い出していきます。
さらに、検索キーワードには3つの種類があります。
広告文では、こうしたキーワードを見出しや説明文に自然に盛り込み、ユーザーに「これは私のための広告だ」と思わせる一文を意識しましょう。
競合が多いキーワードでは、ユーザーの不安を払拭し、「この会社なら安心」と思ってもらえる表現が求められます。
例:
信頼できる情報を見せることで、ユーザーは安心してクリックしやすくなります。
具体的な数字や限定性を伝えることで、広告の訴求力が格段にアップします。
差別化の例:
緊急性の例:
ユーザーに「今動く理由」を与えることが、クリック率の向上に直結します。
スマートフォンでもPCでも、検索広告で**最初に目に入るのは「見出し1」**です。
上記は、「英会話」とGoogleで検索した際に表示された検索広告の一例です。
3件の広告が並ぶ中で、最も目を引いたのは、3つ目の「月2,980円〜」「キャリアアップに直結する英語力」といった具体的な数値やベネフィットを打ち出している広告ではないでしょうか。
検索ユーザーの目に真っ先に飛び込んでくるのは、「見出し1」の部分です。したがって、限られた文字数の中で、いかに訴求力のある言葉を盛り込むかがクリック率を大きく左右します。
見出しに優先的に入れたい要素は、以下の3点です。
説明文でもアピールはできますが、スマートフォンでは文字サイズが小さく、すべて読まれるとは限りません。だからこそ、「最も伝えたいこと」を見出しに凝縮させることが大切です。
検索結果には数多くの広告や自然検索が並ぶため、“見出しで選ばれるかどうか”が広告の命運を握るといっても過言ではありません。
限られた文字数のなかで最大限の訴求を行うには、見出しと説明文の役割分担が重要です。
NG例:
OK例:
異なる情報を補完し合うことで、訴求の幅が広がり、クリック率やCVRにも好影響を与えます。
すぐ売れる広告は「安さ」や「限定性」に寄りがち → 長期的なブランド価値を毀損する恐れも
反対に、ストーリー重視の広告だけでは収益化しにくい
→ 短期と中長期を分けた広告設計が重要(例:認知広告 × リターゲティング広告)
売上直結とブランド構築のバランス:広告戦略の二刀流
D2Cブランドの広告戦略では、「すぐ売る」ことと「長く愛される」ことのバランスが常に問われます。特に立ち上げ期は、短期的な売上を重視して割引や限定性を訴求する広告に偏りがちですが、それだけを続けていると、価格競争に巻き込まれたり、「安いから買うブランド」という印象が定着してしまい、長期的なブランド価値を毀損するリスクがあります。
一方で、ブランドの世界観やストーリーだけに寄った広告も注意が必要です。共感は得られるかもしれませんが、収益化に結びつかなければ事業として継続できません。つまり、「いい話」だけでは売れないのです。
このジレンマに対して、多くの成長ブランドは短期と中長期を切り分けて、広告設計を2階建てにしています。たとえば、まずはSNSなどでストーリー性のある広告(認知・共感型)でブランドの土台を築きつつ、同時にリターゲティング広告や検索広告で購入を後押しするCV型広告を回す。ファネルに合わせた設計を行うことで、売上を確保しながらブランド価値も育てるという、両立が可能になります。
SNS広告と検索広告は、それぞれ得意とする領域やアプローチが異なります。どちらか一方に偏るのではなく、ユーザーの行動や購買プロセスを理解し、適切なタイミングで適切なチャネルを使い分けることが、広告効果の最大化につながります。
とくにD2Cブランドにとっては、認知から比較・購入、そしてリピート・ファン化まで、すべてのステージで一貫した体験を届ける「クロスチャネル戦略」が重要です。短期的な成果と中長期的なブランド価値の両立を目指し、チャネルごとの役割とクリエイティブの最適化を図りましょう。
今後もユーザーの行動や媒体の進化にあわせて、広告戦略を柔軟にアップデートしていく姿勢が、継続的な成長の鍵となります。